プッチーニ:トスカ(全曲)
世界の大指揮者カラヤンの指揮するこのCDは、
頭からいきなり大迫力でスカルピアのテーマが悪悪しく響き渡りそして、
導入へいざなわれる。
この一連がカラヤンの情熱をありありと露見させる。
これらの指揮による素晴らしいパッションに加え、
カレーラス(カヴァラドッスィ)とリッチャレッティ(トスカ)の
名演奏がこのCDの価値を高めている。
なぜ古典を読むのか (河出文庫)
イタリア人作家による、古今東西の古典を自由自在に論じたエッセイが32篇。表題「なぜ古典を読むのか」という、カルヴィーノらしい軽妙なエッセイが巻頭に置かれ、その後は「オデュッセイア」、オウィディウスから「ロビンソン・クルーソー」「パルムの僧院」、バルザック、トルストイ、そしてコンラッドやヘミングウェイ、ボルヘス、レーモン・クノーまで、取り上げられている作家・作品はさまざま。ガッダ、パヴェーゼなどイタリア人作家を取り上げた文章も比較的多いのが、イタリア文学好きには貴重です。
訳者あとがきによると、これらの文章はもともとイタリアのエイナウディ社の文学叢書のまえがきとして書かれたものが多い、とのこと。その訳者は須賀敦子さん。本書でもすばらしい訳文を堪能させてくれます。
カルヴィーノ好き、そして文学を愛する人必読の、贅沢なブックガイドです。
愛の嵐-無修正ノーカット完全版- [DVD]
多くの人々のリクエストに応え、遂に「愛の嵐」が再販となります。前回の発売とは異なるモノクロのジャケットが一層退廃的に見えます。オークションでは7000円ぐらいで普通に取引されていましたが、もうその必要はありません。安く買えます。言わずと知れたカヴァーニの衝撃の愛の名作を、無修正のノーカット完全盤で鑑賞しましょう。そして、ふたりの主演俳優の強烈な演技に心を奪われましょう。
感想がどうあれ、ご覧になっていない方、一度は見るべき作品です。
カルヴィーノ アメリカ講義――新たな千年紀のための六つのメモ (岩波文庫)
カルヴィーノ、なんて言っても知らないだろう。戦後イタリアの国民的人気作家だ。寓話的ファンタジーを得意としている。その彼が1985年にハーバード大学に招聘され、連続講義を行った。その遺稿がこれだ。
彼は、文に書く、ということの意義を6つに整理する。軽さ、速さ、正確さ、視覚性、多様性、一貫性。なぜわざわざ文にするのか、存在の重さを離れ、出来事のつながりを駆け抜け、現実よりも綿密に、幻想に本質を掴み、世界を総覧する。残念ながら、一貫性に関する第6講義の遺稿は無い。その一方、講義では使われなかった、「始まりと終わり」という第8講義のメモが入っている。
欧米の諸大学の文芸学で驚かされるのは、日本の諸大学の文学部のような、ちまい作品解説や作家研究などやっていない、ということ。文学というのは、あくまで哲学のひとつで、古今東西の書かれたものどもを一網打尽、縦横無尽に我がものとして語り取る。このカルヴィーノの講義も、その種のもので、エジプト神話や、ボッカチオ、ドンキホーテ、シェイクスピアから、近年のボルヘス、そしてSFやファンタジーまで、人間の書き伝えたものとして、まったく同列、同時代的に扱い、そこから自分が、21世紀が、文でなにをすべきかを語り出す。
こういう文芸学の基本が違いすぎて、日本では理解されがたい、と思う。だが、そんなことは関係ない。いま、言葉に携わるなら、当然に読んでおくべきものだ。小手先でうまい文を書こうとする前に、文を書く、ということが何をすることなのか、この講義を通じて、しっかりと考えておこう。
マルコヴァルドさんの四季 (岩波少年文庫)
現代イタリア文学の著名な作家、カルヴィーノの児童文学。非常に現代的でシンプルな挿絵とライトな響きのタイトルのため、自分好みの作品かどうか確信が持てなかったのですが、最近時間が出来たので思い切って読んでみたら、大正解でした。物語の舞台も文章も現代的・都会的なのですが、豊かな詩情があり、適度に寓話風なのでほとんど散文詩のようでした。
カルヴィーノの精密で鋭い人間観察と、丹念に選び抜かれ磨き上げられた美しい言葉、ユーモア溢れる文章表現はさすがの一言。これは、よい訳者さんに恵まれたことも大きいのでしょう。
それにしても、錫のお弁当箱を開ける労働者の気持ちをあそこまで細かく的確に、しかも詩情と慈愛とユーモアをもって描写することができるその感受性、観察力、表現力と言ったら天下一品です。世界の一流作家が持つ技量に感嘆せずにはいられません。カルヴィーノは従軍経験のある作家ですし、戦場という所は常に食料が窮乏していますから(「兵士シュヴェイクの冒険」等を読むと嫌と言うほど分かります)、単調な日々の中でささやかな食事がもたらす黄金の瞬間の喜びを、よく知っているのかもしれません。
現代イタリアのどこかの街で、肉体労働に従事する4児の父・マルコヴァルドさんは、自然豊かでのんびりした田舎の生活に憧れる都会暮らしのおじさんです。この物語は、小さな生命の歌声を聴くことができる詩人の心の持ち主である一方で、ありもしない理想郷を夢見てしまう普通人の愚かさをも持ち合わせるマルコヴァルドさんの毎日を描いた物語です。四季×5回、つまり五年間のお話で、20章で構成されています。一話一話が短いので、疲れずに読むことができるのもこの本の長所です。なかなか長編を読む余裕と力量のない現代人に優しい作りですね。
少年文庫に入っている作品ですがこの本の言わんとすることは実に奥深くて、人生経験が少ないとピンとこない所が多いように私は感じましたが、子どもが読むとどういう感想を持つのか、聞いてみたいものです。