この映画が日本で公開されたのは1981年、すでに24年も前のことになってしまったのだ。この映画の原作「鏡は横にひび割れて」はもちろん、ミス・マープル物の長編小説全12作品を全く知らなかった当時は、結構、楽しんでこの映画を観た記憶もあるのだが、それらを読み、テレビ版のミス・マープル・シリーズにも接した後の今になって久し振りに観直してみると、当時は気が付かなかった色々な点に気が付き、そのせいか、観た後の印象も、当時とは随分、異なるものとなった。 ミス・マープル物の長編小説を映画化する場合、ミステリ性重視で行くか、ドラマ性重視で行くかによって、選択する作品は異なってくるのだが、「鏡は横にひび割れて」を持ってきて、そのヒロインに往年の大スター、エリザベス・テイラーをあてたということからすると、この映画は、明らかにドラマ性で勝負に出たということなのだろう。たしかに、この作品は、ドラマ性ではミス・マープル物中ピカ一なのだが、エディターレビューにもあるように、「ミステリとしては意外に地味」な作品でもあるのだ。当時、EMIは、娯楽ミステリ路線でポアロ物をシリーズ化しており、このミス・マープル物のシリーズ化も目論んでいたのだが、ドラマとしての完成度も今一で、思ったほどの収益が上がらず、この一作で終わってしまった結果から見れば、ミステリ性重視で、別の作品で勝負する手はあったのかもしれない。 ちなみに、この映画では、ミス・マープルをアンジェラ・ランズベリーが演じているのだが、「ミス・マープルといえば、この人」とまで言われるようになったテレビ版での当たり役、ジョーン・ヒックソン演じるミス・マープルと比較すると、いささか元気であくが強すぎ、「ゆったりと椅子に座り、編物をしながら推理を巡らす、控え目な老嬢探偵」という原作の設定からは、少々、違和感があるのは否めない。
クエンティン・タランティーノに「最高だ!!」と言わしめただけのことはある。
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