「通貨戦争」なんて、何をバカなことを言っているんだ、 というのが、一般的な感じ方だろう。(私も含めて)
しかし、この本は、 1. 過去、貿易の拡大、失業率対策など国の経済立て直しのために 戦略的に自国の通貨価値を下げるという政策が何度も行なわれてきたこと 2.米国防省は、他国が、基軸通貨である米ドルの地位を脅かす政策を 取ることを恐れ、そのシミュレーションを現実に行なっていること 3.その他国(シミュレーションではロシア)の通貨戦略として 金本位制の復活という選択肢が存在していること を明示しており、現実化する可能性もあることを警告している。
為替は、市場が決めるもので、政府が動かせるものではない、 というのが日本では常識とされているが、(短期的にはそうかも 知れないが)中長期的には、国の戦略によって、操作可能なのだ、 ということを理解するべきだ。
少なくとも、日本は、真面目に良い製品を作って世界に輸出すること などにより経済力を高めても、通貨戦争によって多くを奪われてしまう ポジションにあることだけは、間違いないだろう。通貨戦略を検討 する必要があると感じた。
放送で見て、なかなか見ごたえがあったので、 第三回も購入を検討しています。
とりわけ、番組さいごの方で、 東北大の先生方が、苦しそうに、無念そうに、 語っておられる姿が印象的でした。 「・・・地震学は前進しているはずですし・・・」 とつぶやく姿。 気象庁の観測船上で、黙々と地震計を整備する姿、などです。
しかし、もうちょっと安くならんかな・・・。
「最悪のシナリオ」に対して、我々はどの程度まで、どのように費用を投じて対策すべきなのか。 本書は、この難問に正面から取り組んでいる。 決して結論が出るわけではないが、考えるヒントは非常に多く、好著である。
本書ではまずテロと気候変動という、二つの「最悪のシナリオへの備え」のアメリカの状況を解説する。 テロは9・11以前は軽視されるリスクだったが、9・11以降は一転して多量の費用が投入され、ともすれば戦争を正当化する口実に使われるぐらいにまで広く認知された。 一方、気候変動へはアメリカは大した対策を取ろうとしていない。
同じ環境問題でもオゾン層破壊は好対照をなしており、ヨーロッパが消極的な中アメリカは率先して対策を行い、非常に大きな成果を上げた。 これは費用対効果の点でかなり説明ができる話で、オゾン層破壊は自国レベルでも地球レベルでも被害を防ぐために対策に費用を投じるのが妥当なのに対し、気候変動は地球全体で見てもあまりわりはよくなく、まして一国レベルでは全く釣り合わない。
こうしたイントロの後に、単純な期待値計算でよいのか、そもそもリスクが算定できない場合はどうするのか、人命を単純計算に載せていいのか、取り返しのつかない事態や将来に強い影響の及ぶ事態等をどう考えるのか、などが論じられていく。 「最悪の事態」のために過剰な投資をすることは、本来使えるはずの費用がリスク対策に回されるわけであり、現在の人々の生活にむしろダメージを与える、特に貧しい人々に大きな弊害が及ぶ面が強いという指摘はなるほどと思った。 確かに、明日の食事もあるか分からないような人々にとって、気候変動やテロなどの「巨大リスクへの対策」というのはほとんどどうでもいいものであり、そうした巨大リスクを心配できるのは生活が盤石な豊かな人々だというのはその通りであろう。
しかし、かといって単純に費用便益比較でよいとは筆者は言わない。 例えば絶滅のように一度起きると取り返しのつかない事態に対しては、重みを変えて考える必要を指摘する。 また、権利の問題と絡む場合は、費用便益と無関係に義務は生じる(排水を川に流すことが費用便益的には理にかなっていても、住民の健康を侵害していいわけがない)。
ちなみに本書ではあまり書かれていないが、気候変動がテロやオゾン層破壊と違うのは、テロやオゾン層破壊はそれが生じたら誰にとっても絶対にプラスにはならないのに対し、気候変動は影響がどう及ぶかさえよくわからないという点が挙げられるだろう。 例えばロシア等の地域では温暖化で凍死者が減るというよい影響は出うるだろうし、温暖化が進むと大西洋のハリケーンがむしろ減るという論文さえ存在する[・・・] 影響が必ずマイナスでその大きさだけが問題ならまだ対策する気になっても、マイナスかプラスかさえ(少なくとも地域レベルでは)バラけるならば、意見収斂はさらに困難になるであろう。
3・11以降、リスクについてはさまざまな言説が出ているが、リスク評価としてそもそもどうすべきかを基礎から考えた本として、本書はそうした議論の土台となりうるであろう。 リスクに関心があるなら必読の一冊。
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