第77回(平成22年度)NHK全国学校音楽コンクール 高等学校の部
先日レビューさせていただいた中学校の部に引き続き、高等学校の部の聴後の印象について投稿させていただく。
今年の課題曲のテーマは「いのち」。高等学校の部の課題曲はテーマ題そのままの曲名「いのち」。作曲は近年合唱曲の名作を
精力的に送り出す人気作曲家である鈴木輝昭、歌詞は現代詩でやはり人気の高い谷川俊太郎のコンビ。二人は過去何度となく
タッグを組み、合唱の名作を数々生み出してきた名コンビである。鈴木氏の得意分野である複雑な和声を駆使しながらも各声部
の掛け合いや終盤へのクライマックスの盛り上げ方、ピアノ伴奏の活かし方等、普段鈴木氏が創る曲よりは若干難易度を落とし
ながらも、谷川氏がことばにした全ての生命の平等さ・尊さを見事な楽曲に仕立てた名曲だと思う。
一方各学校の実力の発揮し処の自由曲だが、今年は何故か鈴木輝昭氏と彼の師匠である三善晃氏による合唱曲を自由曲に選
択する学校が目立った。11校のうち2組(4校)は自由曲が被っている。難易度が高くチャレンジし甲斐があること、演奏映えがする
こと等の理由で偶然集中したのだろうが、聴き手としては海外の新曲も含めてより幅広い選択肢から選んで欲しい想いがした。
本盤に収められたのは各ブロックを選抜された強豪11校全22曲。高校生にもなると合唱活動もサークル単位で本格的に取り組む
学校が多いせいか、全国の参加校から選ばれた11校は共に非常にレベルが高く、もはや金賞受賞校〜優良賞受賞校までほぼ実
力的には横並びと言ってよい印象を受ける。昔の様にピッチの正確さのレベルで順位が決まる段階では無く、ピッチの正確さ・発
声の基礎等は完璧に身についているのが前提のもとで、音楽表現の部分でどれだけ曲の真髄に迫れるか、また各合唱団の個性
にどれだけ見合った自由曲選択をしているかで明暗が分かれるレベルまで上昇している、そんなコンクールのレベルの上昇が明
確に全国大会での演奏に表れている、そんな印象だ。
その中で印象に残った演奏を一部述べておく。
接戦の全国大会を制したのは福島県立安積黎明高。旧安積女子高時代に過去Nコン8年連続金賞を受賞した合唱の伝統校。今
年の自由曲は安積女子高時代に当時の教師菅野正美氏が鈴木輝昭氏に作曲を委嘱した2集から成る大組曲「女に」からの2編。
過去同名の選曲でNコン金賞を受賞しており、当時の先輩方への挑戦といったところだろうか。菅野氏の時より若干硬質な表現と
なっているが、現在の団員の持ち味を見事に発揮した素晴らしい演奏だった。
銀賞受賞の杉並学院高は混声合唱団だが、プロの合唱団にも劣らない男女声の安定感・柔らかな発声と丁寧な表現は見事だ。
特に自由曲「木とともに 人とともに」は彼らの個性をうまく発揮した清々しい演奏で鳥肌が立った。
そして個人的に注目したいのが、今回全国大会初出場で見事銅賞を受賞した豊島岡女子高。ここの女声独自の柔らかさ・丁寧な
発声を最大限に発揮した課題曲「いのち」の演奏は出場校の中で最も気に入った。また割と自由曲に新曲が並ぶ中、三善晃の19
62年の古典合唱組曲「三つの抒情」からの選曲も彼女達のカラーに絶妙に嵌った名演奏だ。何処か菅野氏時代の旧安積女子高
を彷彿とさせる女性固有の艶ある柔らかい表現は魅力的で、来年以降の活躍が楽しみ。
その他緊張したであろうトップバッターでありながら、松下耕によるドラマチックな合唱ワルツ「詩人の最後の歌」での力強い表現が
圧巻な香川坂出高や、高嶋みどりのクラシック「霧明け」での丁寧な発音と清らかさが印象的だった宮城三桜高等、各合唱団のカ
ラーにうまく嵌る自由曲を選択した学校群の演奏に特に心を打たれた。
年々レベルを上昇させるNコン高等学校の部、来年はどの高校が栄冠に輝くか早くも楽しみだ。