ドリアン・グレイ [DVD]
原作に忠実版、オカルトテイスト、B級スリラー、果てはマカロニエロ路線など。
何度も映像化されているご存知オスカー・ワイルド原作の幻想小説「ドリアン・グレイの肖像」
であるが、私的にこの映像化が最も出色だと思う。
何よりキャストが素晴らしい。だいたいこれまでのドリアン役はルックス重視は当然ながら
エゴと理想崩壊で自滅するこの難キャラクターを、内面と直結して消化できている例は
残念にもいなかったのだけども、今作のベン・バーンズの演技は表裏内外の自己葛藤が
その美貌に負けずただの堕落者でなく、且つ人間らしい弱さへの共感すら新たに付け加える
という大変良い仕事をしていて、原作好きとしてはかなり首肯できるドリアン具現と言える。
そしてこの映像化に一番貢献してくれたであろうコリン・ファース、これでオスカーでも
いいんじゃないか、ってぐらいブリリアントなヘンリー・ウォットン卿に扮している。
正直このストーリー自体、一歩間違えればただのイロモノになってしまうスレスレ物語なところを
文学原作ものというジャンルからゆるがせもせずカテごライズしてくれるのは、偏にこのひとの
名演賜物。英国貴族に会ったことがないひとは彼をしてその具象を見ることができる、ぐらい、
このひとの知性と魅惑溢れるウォットン卿を見ることは率直な愉しみに違いない。
(私的にLオリヴィエとかJギールグッド、Mガンボンの後継者じゃないかと思っているが如何)
恋で神通力としての才能を失くす美少女シビルを、「パヒューム」以降初めて見たレイチェル・
ハード=ウッドが可憐に演じ、薄幸が今時似合う稀な異彩を放っていて、それも印象的。
ラストにちょっと今風の新釈というか、オリジナル設定やキャラクターも登場し、改変とまでは
いかないが、結末にかなり関ってくるアレンジがなされているが、それも原作ファンを失望させる
には至らない見事な処理で好ましいし、原作で匂わされている画家バジルとドリアンとの
同性愛関係を直球で描いているあたり、当のワイルドも意外と諸手で喜んでくれるのでは
と思わせる自然さが時代の流れも感じさせ、感慨深くもあった。
長年理想の映像化を見たいと願っていたが、これで私的にもう作られなくていいと思っている。
まぁ新しいのがあれば確かめずにはいられないのだけど。
幸福な王子―ワイルド童話全集 (新潮文庫)
『幸福の王子』や『わがままな大男』は、言わずと知れたワイルドの名著で、子供の頃に一度は読んだことがあることでしょう。登場人物の中には、純粋で愛情溢れる人がいる一方、傲慢で心ない人達もいます。そういった人達は、人間の滑稽さや弱さを表しているようで、心に刺さりました。嘘や言い訳にあまりにも慣れてしまった大人にこそ、改めて読み返してほしい一冊です。
理想の女(ひと) [DVD]
人生の奥行きを感じさせる大人の恋愛ドラマ。ヘレン・ハント、トム・ウィルキンソンをはじめとする俳優達の演技がすばらしい。
日を置いて続けて2回見たが、面白さは増しこそすれ、減じることはなかった。
ドリアン・グレイ 美しき肖像 [DVD]
19世紀、オスカー・ワイルド原作を60年代末のロンドンを舞台に、イタリア人の監督、アメリカ・イギリスの資本、そしてオーストリアの主演俳優で撮った作品です。
永遠の若さを保つ為に肖像画を媒体として魂を悪魔に売り飛ばしたドリアンが己の欲望のまま、若さと美貌を武器に男女問わず篭絡して暮らす様を描いたピカレスク・ロマンです
怪奇幻想趣味よりもエロティックなファンタジー風味が強い作品となっています。
ソフトコアといって良い程バーガーを含めた登場人物達が脱ぎまくります。
同様にバーガーは途中十数回のお色直しで様々なスーツから水着までのファッションを楽しませてくれます。
脇を固める男優たちも50年代から活躍するイギリスの2枚目、リチャード・トッド(「舞台恐怖症」)、そして普段はコメディから悪役までを演じる個性派ハーバート・ロム(「ピンクパンサー」)までが、いつもより耽美的なメイクで美中年といって良い姿で登場し驚きますが、これが若いバーガーの美貌をより引き立てる効果を生んでいます。
導入部のまだ悪魔に魂を売り渡していない普通の美青年としてのバーガーが1970年のロンドン市内を歩き回る姿が逆に新鮮です。
魔性の美青年としてのバーガーの存在感に頼った作品で、ヴィスコンティ作品の様な奥の深い内容は望むべくもありませんが、想像していたよりはB級の面白さに溢れていました。
マリー・リシュダール(「早熟」)を始めとする19歳から65歳までのドリアンと肌を重ねる女優陣も見物です。
映画の肝となる肖像画の出来については触れないでおきましょう。
このお値段でしたら、出来ればバーガーの産毛が見える画質のBDで出して頂きたかったですが、紀伊国屋さんならではの小冊子といって良い付録解説書は読み応えが有りました。
ベット・シーンには日本の前張りとは異なった技術を用いて役者の局部を守っていたこと等、トリビアルな話題も満載でした。
バーガーのファンの方、大いにお薦めです。
バーガーの顔を観るのも嫌、と言う方にはまったくお薦めできません。
ドリアン・グレイの肖像 (新潮文庫)
美(醜)に関する徹底した探求、文章の可憐さ、迫力、洞察力の鋭さ、
そして内容がミステリアスで非常に人間の願望をくすぐる上手さ。
ワイルドという人間の魅力がつまっているお薦めの一冊。
美しい青年につきものの野心とか、
美しいものに魅了され支配されてしまった人間の愚かさとか、
無垢な青年の心に感化を与え、快感を感じる知識人と貪欲さとか、
三者三様の人間の性が読み手の心を興奮させてくれます。
読書、いや言語が快楽であることを感じさせる秀作です。