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2011年3月13日 安住紳一郎 日曜天国
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岩下尚史 最新動画


名妓の資格―細書・新柳夜咄 (芸者論)

芸への精進と超一流の客、日本一の超高級花柳界のプライドで
洗って洗って磨きぬいて垢抜けしきったような
ほんっと〜に粋なお姐さんの語る新橋のお話。
すっきりした東京弁の語り口もステキすぎ。
とても率直に「一流の芸者の生活」を語ってくれているのですが
差しさわりのありそうな話は鮮やかにスルー。
余計なこと言ったり絶対しないんだろうな・・・
「口で失敗するのは芸者の恥」と
ご本人もおっしゃっていますから。
ちょっとしかないけど古風な美妓たちの写真もきれい。
なんでも極めれば名人だな〜と感心しちゃいました。
昔のヒトみたいな文章なのに
著者が意外と若いのも楽しいです。



見出された恋 -「金閣寺」への船出

先日、著者の岩下尚史さんがTVで「恋愛なんて幻想ですから、誰と付き合ったって一緒」というようなことをおっしゃっていました。

そんな著者がしっとり美しい言葉遣いで描き出した、今からおよそ60年前の日本、当事戦後復興や朝鮮特需などの影響で大繁盛していた料亭の娘、豊田貞子さんと故三島由紀夫の4年近くに渡る恋愛模様、逢瀬の記憶です。

二人の心模様だけ描き出したのなら、平凡な恋愛小説でしかない本作を特別な恋愛小説に変化させている要素はまず、主人公の満佐子(豊田貞子)の生まれ育ちの環境が稀有に豪華なこと。

当時19、20歳の満佐子の生活を追った描写には、極庶民の私には仰天の連続です。

毎日銀座の美容院へ行き髪を結う(日髪)、足袋は履き捨て、着物は二日と同じ物を着ない、着物は絵柄や染の注文を毎日呉服屋へ指示、なんやかんやの和装小物を季節ごとに京都から取り寄せる、それらはすべて極上品、もちろん家事などしたことは無く、身の回りのことは女中がしてくれ、電話など直接受ける事もなく、財布にピン札が10万常備(当事の8万円が現在の100万円だそうです。)。

大きな財力にがっちりと守られながらも水商売の家庭だから放任されてのびのび自由に、その間に様々な大人の色々も目の当たりにする。

三島が外国へ誘っても、結婚を望んでも即答で却下、外の世界になんぞそう簡単に興味は持てない。

著者は彼女の事を「半玄人」と形容しています。
玄人はお金で言いなりになる。素人は相手を楽しませる技術も知識も経験も無くつまらない。
満佐子はあらゆることに酷く満たされていて、三島の思いどうりに決してならない。

小説執筆に戯曲制作と稽古、歌舞伎の台本書きや筋トレ(耽美派だから)と忙しくしながらも4年近くの間ほぼ毎日満佐子を呼び出し、デートを重ねていた三島の体力に驚かされるが、それに合わせて毎日豪華に着飾り出かけていった満佐子も凄い。

この作品の魅力は、二人の財力と体力のエネルギッシュなパワーを感じる事。
裏話で、三島由紀夫は彼女と付き合うために、週あたり現在の価値で100万円ほど借金をしていたそう。

きれいに身なりを整え、芝居やナイトクラブに高級な料理、移動はもちろん全て車。
潤沢にお金をかけて二人の時間を甘美なものにする様子に「これが恋愛をするということか」と学ぶ事が多い。

三島由紀夫について知る貴重な文献になるかどうかは、どうでしょうか。。。
三島の恋愛の仕方に特別なものなどなにもない、自己中で柔軟性の無い男というだけですから。よくある感じ。

しかし、三島が恋愛に対してのみならず、いろいろな物事に対して、満佐子に挑んだように盲目的に自力を遥かに超えた力で向かって行って、彼の思い描いたとおりにならなかった経験を、「敗北」や「失望感」「絶望」として積み重ねていってしまったら、あのような最後につながっていくのかな・・・・と感じたり。

最後、満佐子にフられて数年後、自身も別の人と結婚をしたのにまだ満佐子に未練たらたらな三島に"Take it easy"と言ってやりたい。

満佐子が三島とずっと一緒に居ようと思えなかった理由は、三島が満佐子に対して個人として向き合っていなかったからだと思う。

三島は満佐子を取り囲んで守っている大きな力(社会の権力や一流な物事とのつながりが醸しだす豊潤なオーラ)になにか夢を観ていたのだと思う。
だから本作は「恋愛なんて幻想」の骨頂のような話。

ともかく、私はとても楽しめました。「ヒタメン」の方も読むのが楽しみです。

花柳界に明くない方は、この本を読む前に「名妓の資格」を読んで、花柳界の段取りやものの呼び名などさらった方がより楽しめるかと思います。



芸者論―神々に扮することを忘れた日本人

 花柳界の本質をつかんだ名著の誕生である。本書は、今風の学者が付け焼き刃で書いた「芸者概論」ではない。長年新橋に席を置き、その世界を愛する著者が、古典文芸や芸能、あるいは折口学への深い造詣を糧として芸者の世界を詠い上げている。その姿勢はあくまでも客観的であることを心がけているようだが、根底に一貫するものは、失われつつある花柳界への、さらにいえば花柳界とともに生きてきてついには滅び去りつつある、日本の民俗やその奥にひっそりとたたずむ日本人の心への挽歌ではないだろうか。
 評者も花街文化には感心があり、いままでも目に付く本は読んできたが、これほど知らないことで埋め尽くされた書物に出会ったことがない。芸者の発生から職掌、関連職種との関係など、具体的であますところがない。とくに明治以降の花柳界については、関連の社史編纂に携わったというだけあって、まことに手際よくまとめられている。
 このような本を書いたのはいったいどんな人なのだろう。文章から滲みでる感性は、上品な老紳士のもののようでもあるが、ひょっとすると女性かとも疑わせるところすらあった。本書の資料編として「名妓の資格」という聞書きが続刊されるという。楽しみである。
最後に、上品で記号性に富む装丁にも好感が持てる。夕陽に映る厚層ビル群のシルエットを眺める芸者の立ち姿は、どこか寂しげであり、本書の内容と奥深く共鳴しているように思われた。



ヒタメン  三島由紀夫が女に逢う時…

 直面(ヒタメン)とは能楽の用語であり、面(オモテ)をつけずに演じる状態をさす。三島の出世作『仮面の告白』に対応する言葉として選ばれたタイトルであろう。
仮面の告白』は、三島を流行作家に押し上げたが、描かれた主人公と三島はしばしば混同されたため、三島の不幸の根源は同性愛指向にあるという一面的な考え方をする人間を多く生みだした。また、作品を売るために、三島本人も意図的にその混乱を助長するような発言をおこなっている。
 しかし、三島には深く愛した女性があり、本作は彼女に取材したノンフィクションである。

 最初に置かれた<端書>が、旧漢字や、やや古い書き方や言葉を多くつかった読みにくい文体なので、本書の購入をさける方も多くいるだろう。
 しかし本編部分は大変読みやすいので、できればそちらを見てから考えていただきたい。

 三島が名士でありながら、多くの女性とつきあえなかった理由は、彼の好みが極めて特殊であったためであることがよくわかるだろう。



2011年3月13日 安住紳一郎 日曜天国


全編収録
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