個人的には日本の探偵小説史上、屈指の巨匠と思われる泡坂妻夫の単行本未収録作品集。 紋章上絵師にして卓越したマジシャン。 騙しの技術を極めた本格物。綿々たる情緒を忍ばせた恋愛小説。豊かな考証に裏打ちされた時代物。 その総てが特上品であったマエストロのまさに引退公演に相応しい豪華な造本の喜びは電子書籍では決して味わえない。
参考までに泡坂妻夫私選ベスト 長編 『花嫁のさけび』(サプライズエンディングの極致) 『しあわせの書』(とにかく一読をお勧めする文字通り驚愕の書) 『湖底のまつり』(騙しのテクニックと官能描写の妙) 短編 「紳士の園」(チェスタトンを彷彿とさせる傑作) 「黒い霧」(亜愛一郎シリーズの最高傑作) 「右腕山上空」(秀逸な不可能犯罪もの)
優作さんのファンです。
正直、私的にこの映画に関しては、
「原作」とか「脚本」とか・・・
そんな事、どうでもいいです。興味が有りません。
大野雄二さんの素敵なスコアをバックに、優作さんが登場するだけで満足です。
特に、「大都会part2」(あんなに暴れはしませんが・・)の徳吉刑事を連想する様な
優作さん特有のさり気なくコミカルな(アドリブ?)台詞が堪りません。
いい味、出ています。
とにかく、
「松田優作」とか「篠ひろ子」のファン方にはお勧めの1本です。
それ以外の「原作,脚本・・」云々を望まれる方は、避けられた方が無難です・・。
◆第一話「赤島砂上」
裸体主義者クラブ(!)の集会が舞台。
トリックは、今では普通にことわざとして流通している
〈ブラウン神父〉シリーズの「アレ」が用いられます。
◆第二話「球形の楽園」
完璧な密室状態の丸いカプセルの中に、前頭部に打撲傷、
背中に突き傷を負った男の死体が…。
強迫観念に囚われた人間の視野の狭さには、
身につまされるものがあります。
◆第三話「歯痛の思い出」
病院での呼び出しである、
「亜さん、井伊さん、上岡菊けこ……?」
が、とにかく印象的。
◆第四話「双頭の蛸」
北海道の湖に現れたという双頭の蛸を取材するため
駆けつけた記者が遭遇した殺人事件。
一枚の写真を見るにしても、人は自分の
「見たいもの」しか見ない、ということでしょう。
◆第五話「飯鉢山山腹」
車体に書かれていた「ニウ島産(屋島ウニ)」の謎。
◆第六話「赤の讃歌」
赤を基調とした絵で名を成し、
画壇のドンにまで上りつめた画家の話。
終盤、すべてが裏返され、反転していく、
逆説の論理が展開されていきます。
◆第七話「火事酒屋」
火事が好きでたまらない酒屋の主人が遭遇した
不審火の現場から発見された他殺死体。
主人は放火と殺人、二つの容疑をかけられるのだが…。
集中の白眉。
背が低いために、消防士になれなかったという
酒屋の主人の人物像が、事件の構造と有機的に
結合しているのが、じつに秀逸。
◆第八話「亜愛一郎の逃亡」
雪中の離れから、亜はどのようにして
足跡を残さず、忽然と姿を消したのか?
亜の正体が明らかに。
祝祭的なラストの幸福感は格別です。
名探偵名鑑が編まれた時に(五十音順で)最初に
くるようにと命名された本作の探偵役・亜愛一郎。
雲や虫、化石などを専門に撮影するカメラマンである亜愛一郎は、その眉目秀麗な
外見にそぐわないドジな振舞いを連発するとぼけた人物として造形されていますが、
誰よりも早く事件の存在に気づき、真相を見抜く観察力と推理力も備えた好漢です。
ミステリとしては、奇妙な謎や風変わりな状況が示された後、それについて天啓が
閃いた――「白目をむく」というアクションをする――亜が、謎解きを披露する ――
というのが基本パターンで、まず意外な真相が明かされてから、亜がそこに到るまで
の思考のプロセスが開示されるといった構成が採られています。
その際に展開される読者の意表を突くチェスタトンばりの逆説的ロジックは、
ときに非現実的なものになる恐れもありますが、それに説得力を付与すべく、
全編に亘ってさりげなく数多くの伏線が張り巡らされています。
読者は、亜の謎解きによって、あれもこれも伏線だった
のかと気づかされ、必ずや驚嘆させられることでしょう。
※収録された短編の内容については「コメント」をご参照ください。
謎のヨガ師ヨギガンジーは、新興宗教団体「惟霊講会」を揺るがす教祖継承問題に首をつっこむ羽目になる。そこで手にした布教用の小冊子「しあわせの書」。なんの変哲もないこの本には、深慮遠謀が隠されていた…。
たまたま他の方のレビューで本書のことを知り、「とにかく、ただ本を読むだけじゃなくてうれしい驚きを与えてくれるシリーズなのである」という意味深長なその言葉に引かれて、この1987年の文庫書き下ろし作品を読み始めました。
読み進めながら訝しく感じたのは、233頁のこの物語には、さほどクライマックスらしい大きな展開はなく、どうみても驚きと呼べるほどのものが見えてこない点です。ミステリーとしてはかなり平凡なのではないでしょうか。ヨギガンジーやその仲間である美保子も不動丸も、なんだかテレビの2時間ミステリーに出てくる型にはまった感じのおどけたキャラクターで、三文小説風です。
そして230頁目を過ぎて、事件も一応の決着がつき、物語はこのまま終わってしまうかにみえます。なんだ、この程度の物語か、なんともつまらない、と思ったそのとき!!
おもわず私は「えっ!まさかっ!そんなことって本当に出来るの!?」と声を上げ、寝転がっていたソファから驚きのあまり飛び上がってしまったのです。
そうなのです。そんなことが出来てしまうのです。
詳細は残念ながらここに書くことは出来ませんが、230頁もの間、とてつもない企みが目の前で常に展開されていながら、私自身、全く気がつかなかったことに大きな驚きを味わいました。たとえて言うならば、まつ毛が目に映らないかのような、その見事なトリックに呆然としました。
まさに他の方のレビューにあるとおり、「こういうことを思いつくのもスゴイとおもうが、それを本にして出版しちゃう出版社もエライ」。
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