モノノ怪は大好きなアニメですが、「鵺」は特に好きなエピソードです。ストーリーが秀逸なのはもちろんのこと、
冒頭、あのしんしんと雪が降っている時のひんやりした空気感と奥行きの広がりを、
白黒だけで現実に体感するよりも生々しく描ききっていて、初見の際には思わず背筋がゾクゾクとしたものです。
退廃的な閉塞感につつまれた未来世界を舞台にワイルドな魅力をもった美女・クーを巡って繰り広げられる暴力とエロス。 父親によって入れられた訓練施設での教育と訓練によって鍛え上げられた肉体と格闘能力をもったヒロインですが、性においてどうしようもなく女性のモロさのような一面を見せます。 クーに絡んで登場する男性と、ほぼ性的な関係をもってしまうので、そのエロスの方に観点がよりがちになってしまいますが、男性から見たときのクーに対する価値観も様々でこの辺が筆者のドラマに対する筆力を感じさせてくれます。 クーには秘められた超能力があるのですが、これが発現するシーンもかなりきわどい感じで、SFというカテゴリーでいいんだろうか……と考えてしまいます(笑
作者は現在隆盛を極める変則ミステリの祖と言ってよいだろう。思春期に『匣の中の失楽』の影響を受けたミステリファン(現ミステリ作家も含む)は数知れない(かくいう私もそのひとりである)。『匣の中の失楽』は、反ミステリの金字塔である先行作・中井英夫『虚無への供物』へのオマージュであるが、後者は道徳的・人間論的な形で(いわば神学的に)ミステリの不可能性を開示したのに対して、前者は語りの構造を通してその不可能性を示した。穿っていえば、『匣の中の失楽』はゲーデルの不完全性定理のような衝撃をミステリ界に引き起こしたのである。 アナロジカルに見て面白いのは、(一部で誤解されているように)ゲーデルの定理によって通常の数学が崩壊したわけではなくむしろ発展したように、ミステリは『匣―』式の変則ミステリを含みこむことで、以前の時代に比して驚くほど多様になっていったということだ。例えば綾辻行人はごりごりの正統派に見えるが、かつての古典をモデル(イデア)として立てたミステリ観から書かれてはいない。あくまで平行線公理の否定も成り立つことを認めた上での平行線公理の使用である。今では「正統ミステリ」とは、いつでも変更可能で廃棄可能な、一定の「公理」を採用したミステリの意にほかならない。 竹本健治は『匣の中の失楽』の神話性を自ら破壊するかのごとく、その構築的脱ミステリ性自体をパロディ化して、現実のミステリ作家やミステリ関係者を多数登場させた、現実と虚構の決定不可能性を試行する『ウロボロスの偽書』を上梓した。当初は賛否両論あったかと思うが、続編『ウロボロスの基礎論』あたりでは、その作法はおおむね好意的に受け入れられ、さらなる続編の期待が高まっていった。そのウロボロスシリーズの三作目にして最終作として満を持して出版されたのが、この『ウロボロスの純正音律』である。 前作では二つの系、前々作では三つの系と、複数の系が絡み合ってストーリーが進行した(つまり多重世界的であった)のに対して、今作はストーリーが一本化している。それに呼応するかのように、シリーズ中もっとも正統ミステリ感が濃い。定番の薀蓄も残っている(純正律についてのそれには感心した)が、はっきりストーリーの伏線になっている。そもそも謎の洋館の中で生じる「見立て」連続殺人という時点で、ばりばりの正統派である(もちろん上記の通り、今日のミステリファンはそれを文字通り取るわけではない)。探偵役もいつもの綾辻行人に、作品中の京極堂さながらの京極夏彦、意外な伏兵北村薫と揃っている。 竹本健治のストーリーテーラーぶりが遺憾なく発揮されており、ミステリファンはもちろんそうでないひとにも、躊躇なくお勧めできる、娯楽小説になっている。
推理小説としてはあまり面白いとは言えない。
だが読み終えた後でストーリーすら忘れてしまう本が多々ある中で、これは読み終えた後も何故か心に残る作品だ。 作中作が交互に織り込まれもはや何が物語の本筋で何が作中作なのか分からず読者は迷宮に迷い込む。この構成を得ただけでも本書の価値は高い。
初めて読む作家さんです。
読み始めの1章は、1編ごとのくぎりがわからず
短編集??っと、首をかしげることも。
登場人物さえも、一体誰が誰なのかもわからず
正直、読み進めるのがしんどくて、途中で投げだしそうになりながらも
「樹影荘」の間取り図に、興味を惹かれて読み進む。
これが2章目あたりから、登場人物がハッキリとしてきて
色々な展開を見せ始める。
トイレの血文字、廊下の血痕、中庭の骨…。
1章の伏線が、次々に明かされていく。
住人が死に、火事が起こり…。
入居者達の、過去が浮き彫りになって行く。
全体的に、妙な雰囲気で狂気に満ちている。
私なら、絶対にこんなところに住みたくない場所。
ストーリー的には、面白いのかと問われれば
素直に頷けないけど、この不思議な世界は印象深い。
好みが分かれるとは思うけど、好きな人には好きな世界なんだろうなと
思うと、妙に納得もする。
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