この映画、いいなぁ。場末のドサ周りに落ちぶれても、夢と、希望と、紳士の心を失わない、愛すべきブロンコ・ビリー(クリント・イーストウッド)。たった3ドルの両替のために銀行に入るとき、出てきたオバハンに敬礼してレディ・ファーストだし、そんなビリーに惹かれてくじゃじゃ馬娘(熟女?)のミス・アントワネット(ソンドラ・ロック)に対してネイティブアメリカンの古参おばさん団員(シエラ・ペチャー)が味のある一言。「アパッチではそれを愛っていうのよ、自分から逃げないで」。今日びだと「先住民」といわなきゃならないところを、インディアンって言ってるのもいいなぁ。ラストでミス・アントワネットが茶目っけな笑顔で登場したときの、一座みんなの驚きと、ドク(スキャットマン・クロザース)の、真っ白い歯並びをもろ出しにした最高に嬉しそうなあの笑顔。あの顔だけでこっちも嬉しくなっちゃう。いいなぁ。 こういう、一途な男と勝ち気な女性がくっついてめでたしめでたしっていうのは、古きよきアメリカ映画の伝統ですよね。映画マニアは評価しないだろうけど、これが映画の王道ってもんでしょう。私は、ブロンコ・ビリーとワイルド・ウエスト・ショーのみんなを愛します。
今や、押しも押されぬ、ハリウッドを代表する偉大なフィルム・メーカーとなったクリント・イーストウッド、アメリカ本国では、92年の「許されざる者」以降、その名声を確立させたと言われており、それ以前に彼が撮ってきた数多くの映画の殆どは、評論家筋からは、冷笑、黙殺、酷評といった過小評価を受けてきた感があるが、実は、それらの映画たちの多くにこそ、極めてイーストウッド的な映画愛に満ちた心躍る幸福なムードが脈動していると思う。古き良き西部に憧れ、靴のセールスマンから転身して!(笑)、ドサ廻りの見せ物ショー的な「ワイルド・ウエスト・ショー」の座長を演じる今作も、過剰なまでのアナクロニズムへの傾倒と、夢とロマンを追い続けるその男気が、広大な西部の青空の如く、おおらかに描かれる。インディアン、ベトナム脱走兵、黒人ら、社会の片隅でひっそりと生活することを余儀なくされた者からなる座員たちの明るさと仲間意識の素晴らしさ、そして、彼らの面倒を見るイーストウッドの眼差しの暖かさが、心地良い。当時のイーストウッドの愛人であった、あの高慢なソンドラ・ロックでさえ、一座の機微に触れ、魅力的な女性になっていく。そして、この映画に流れるユーモラスなタッチも特筆ものだ。劇中、観客の火遊びで、見せ物小屋のテントが焼失してしまい、悲嘆に暮れる彼らが、窮地の中思い立ったのが、何と、列車強盗!(笑)。三角布で覆面し、馬にまたがり、銃で列車を襲うシーンは、ドン・キホーテ的ながらも、その心意気に、心打たれる。
『ダーティ・ハリー』の影響か、タフで、(時として)暴力的なイメージが強い
イーストウッド。しかし、それは、ドン・シーゲルやセルジオ・レオーネの作
品においてのこと。イーストウッド自身の作品では、タフで男らしくあるが、
それ以上に「やさしい」人物像(作風も)を演じることが多い。
本作でも、時代遅れの西部への夢をひきずるワイルド・ウエスト・ ショーの
やさしく(時に癇癪を起こすのだが!)、頼りになるボスを好演している。彼は、
夢のない時代だからこそ、人々―とりわけ子どもたち―に西部の夢を与える
ことに人生をかけている。彼の車に群がる子どもたちの前に、逆光で、シル
エットになったカウボーイ姿のイーストウッドが「手を挙げろ!」と登場する微
笑ましいシーンに 失われてしまった時代への美しい憧憬が表れている。タ
フで、頑固で、やさしい。まさにイーストウッド・ヒーローである。
イーストウッドは、ボスとじゃじゃ馬の都会的女性(実生活のパートナーでも
あったソンドラ・ロック)の恋の駆け引きを軸に(まさに『牧童と貴婦人』)、
ショーの仲間たちとの楽しい(つらくもあるのだが)巡業をやさしく、愛情一杯
のユーモアで描いていく。力まず軽い演出に、いつしか観る者もワイルド・ウ
エスト・ショーの仲間に迎えられたような感覚になるだろう。イーストウッド自
ら、キャプラ風作品を目指したというだけあって、幸福感に溢れた作品になっ
ている。
本DVDは、本編のみという寂しい仕様。イーストウッドのマルパソ・プロは、
DVD化に際して、特典をあまり付けさせない方針ということらしいが、将来的
に、特典映像も収録して、再発売して欲しいところだ。
結構、面白い作品だったんだなぁ、と今更ながらに感じています。 初めて観た当時はEastwoodと言えば、アクションスターのイメージが強かった(特にHarry刑事役が強烈すぎた)ので、こういったほのぼのとしたLove-Comedyっぽい作品は私にとって余り、馴染まなかったのが本音です。 しかし、それから25年ほどたち、私もオッサンとなった、今、このような作品のEastwoodもとても魅力的であり、更に驚きなのが、当時、何処が良いのかさっぱりわからなかったソンドラ・ロックまでがマシに見えてしまうのだか ら人間って年取ると映画を見る目も変わってしまうんだなとつくづく感じました。 とりあえず、最近のEastwoodの主演作・監督作にはどうにも付いていけない方にお薦めします。
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