著者はこの本を「バルトの誘い水となるような入門書」と読んでいるが、この点については私も概ね同感である。ただし、同じく筆者が言うように、本書は決して「わかりやすく解説するという意味での入門書」ではない。フランス思想の基礎知識を持たないものが内容を把握するのは、決して容易ではないように思われる。学部専門課程以後に読むのが適当であろう。
書くという行為は、悲しくもその中に宿命的な主観性を宿してしまうが、とりわけバルトにおいてそれは不可避的である。「固まること」を最も嫌い、生涯スタイルを変化させ続けたこの書き手においては。したがって、ここに提示されているのは、あくまで著者におけるバルトであり、もっと言えば著者そのもののフィギュールにほかならない。それを受け入れるかどうかは、もちろん読者の自由である。
ちなみに、著者は私の直接の師である。尊敬を込めて。
哲学編、文学編、芸術・科学編の3部構成で、フランス現代思想の代表者の様々な文章が集められ、仏和対訳で与えられています。取り上げられているのはフーコー、デリダ、レヴィナス、ミラン・クンデラ、デュラス、ゴダール、ロラン・バルト、レヴィ・ストロース、ブルデューといった人たちです。またテキストの他に、各著者のプロフィール、キーワード、解説、関連文献リストも与えられています。フランス現代思想概論ともいうべき本です。本書の次に、この本で興味を持った思想家の原文にあたるのがよいと思います。残念ながら本書だけで各思想家のことがわかった気には絶対なれないので。また、テキストも、各思想家の代表的著作からの抜粋とはなっていません。そういう意味で、ちょっと欲求不満が残る本かもしれません。
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