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この本は、９０年から９１年にアジア局中国課長を勤め、
06年から１０年に渡って特命全権大使を勤めた、いわゆるチャイナスクール出身の外交官の書である。
ちなみに、外務省で課長とは自分の部下を最大限に使い、情報が最も入りやすい立場であり、
０８年に日中共同声明で、戦略的互恵関係に関しての合意を得たに、実務を担っていた事などから、
非常に信頼に値し興味深い個所があった。
いわゆる、対中強硬派は、中国は常に歴史カードを使ってくるなどと
抜かすが、それは０５年反日デモ以降、特に当てはまらない事を主張しており、多いに納得できる。
また、私自身中国に興味があり関連本を複数読んで来たが、特に０８年戦略的互恵関係に関する枠組み
について詳しく述べられており、それががいかに過去繰り返して来た悪循環を断とうとして
編み出されたかものかを示している。
また、巻末に重要な歴史的資料を付加しており、学びやすくなっている。
マイナス点は、昨今の尖閣問題に関して述べられていない事か。
特に尖閣事案に関しては、戦略的互恵関係において約束をした事を、
あたかもメッセージ的に停止する事で日本への警告を発していた事からみて、
いまなお、いかにこの枠組みが脆いかがわかる。
逆になぜ、今の外務省はその点を認識して、船長の拘留が長引かせる事で
更なる対抗処置をとる事が読めなかったのか、または伝わらなかったのか、
この辺を詳しく知りたい物としては、ぜひ内部関係者から語ってもらいたかった。
この本の著者の主張には、すでにこのコメント欄で指摘している人があるように、問題がある。例えば東アジア共同体も概念としてあるだけ、現実を離れた理想としてあるだけで、とても実現性のあることには思えない。
孫崎さんのようにいくらゲームの理論を持ち出しても、中国にはそのようなゲームをする気はないし、また、同じルールでゲームをするつもりなどない。孫崎さんの主唱される一種の「政経分離」は、それ自体日本に都合のいい、そうあればいいという一つの政治選択である。中国はそれが都合のいい時にはのってきたが、その必要性がなくなると、そんなものどこ吹く風だ。中国にあるのは根本には政治なのだ。中国の政治的発想は、その歴史を考えればわかるように、いつも自己の帝国的発想なのだ。
ここにいくつか国があるとしよう。A＝アメリカのような国、B=石油天然ガスのみの収入、C=農産物のみによる収入、D＝観光と金融マージンのみによる収入。これらの国々のGDP・GNPが同じとしよう。だからといって、「それゆえ、A、B、C、Dは国力が等しい」などとは言えない。中国はAタイプの国ではない。またAタイプの国にはなれないだろう。
中国の経済成長にはいろいろな特色がある。例えば、よくいわれるように、それは国家によるインフラや不動産投資によるところも大である。これはかっての「大躍進」のようなもので、すでに指摘されているように、かっての大躍進と同じく大きな問題を生じさせている。
中国は歴史上中東、東アフリカなどとも交易したことがあるが、基本的に自給自足の国であった。しかし今日の中国は対外経済に大きく依存するようになった。こえは中国史上初めての経験であり、中国が対外交易関係を自己の都合のいいように左右できなくなった。それなくしては、中国は生存できなくなったのだ。
世界はいい行儀の中国があったほうがいい。しかし、絶対になくてはならないかということはない。中国なしでやっていける。中国は外的世界がなくてはすまされない。
中国の経済発展の強みは、その弱さから来ている。その低賃金（弱さ）と、（日本をふくむ欧米諸国の飽和して国内市場にたいし）その未飽和の市場（これも中国が発展途上国であるという一つの弱さ）だ。だから先進国の企業が中国に出かける。
将来中国が世界経済を率先して牽引していけるか。中国は、アメリカのように、国際社会の公共財（安全保障、経済発展の進取、通貨、核不拡散など）を提供できるか。こうしたソフトパワーがあるだろうか。大きな疑問だ。およそ無理だ。
などなど、いろいろ孫崎さんの意見には反論があると思う。最近、中国の学者でも「やはり中国はダメかも」と言い始めたものもいるし、共産党の幹部もいざという場合は外国（それもかっての西側欧米諸国）へ逃げれるようにしているものも多い。
「村田良平回想録」にコメントを寄せていますので、サラッとでもお読みいただければ嬉しく存じます。
「外交は１に国益、２に国益、３，４がなくて５に国益です」と初めて鈴木議員に会った外交官の佐藤さん（元外務省主任分析官）は仰ったそうです。
本書では、自己保身に走る数々の外務官僚の姿が実名を上げて紹介されており、所謂ムネオ事件の背景（真実）と、マスコミが如何に外務官僚や検察からの偽りの情報リークに踊らされ、我々国民自体もそのマスコミ情報に踊らされていたかを知ることができます。
また、外務省の実情、米国と歴代首相の任期の長さ、冷戦終了後の日米関係の有り方、北方領土問題の変遷、北方領土ビジネスで利権を得る団体等々について、国益をストイックに守ろうと働いてきた佐藤さんと鈴木さんの考え・見立てを知ることができ、
自身の見識を深める上で、他にあまり類を見ない貴重な書籍の一つだと思います。
数々の賞を受賞された佐藤さんの書籍を未読で社会人の方は、ぜひご一読下さい。
追記
後書きで、鈴木さんが読者へのメッセージとして引用されてた、松山千春さんの歌詞を抜粋します
「生きる事が つらいとか 苦しいだとか いう前に 野に育つ花ならば 力の限り生きてやれ」
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