淡々とした語り口(ちょっと言葉遣いが文語調でもあり)ながら、随所にユーモアが溢れていて(特に最初は毎ページ)非常に面白かった。『家守奇譚』にも少し似た語り口。ただそれ以上に、内容的にも今までの著者のテーマを入れつつ、より精巧でどんどん進化している印象を受けた。またこれまでと同じく、著者の作品に登場する町は、コンビニやスーパーといったものが存在しないような場所なのだ。
f郷に引っ越した植物園勤務の佐田は身ごもっていた妻を亡くし、朝食付きの間借りをしている。1年前に旅先で痛くなった虫歯を応急処置してもらい、そのまま放っておいたところ、激痛に耐えかねて近所の歯医者に行く。そこであるものを見、また次第に勤務先の植物園でも様々な植物や虫の生態に触れ、専門の水生植物も調べようとしていると、あるとき、巣穴に落ちてしまう。
自分の中の「うろ」(虫歯を含め)と植物園の「うろ」、亡くなった妻の千代と同じ名の、実家にいた「ねえや」とf郷にいる女性、すべて「過去と現在がみんないっしょくたに詰まっているのだ」。この名前にまつわるテーマは『裏庭』でも用いられていたもので、最後に明かされる事実がある。また同じような言葉遊び(なぞなぞ)も登場し、すべてのものが梨木ワールドでは繋がっている。佐田が巣穴に落ちてからはファンタジーの世界が広がり、恐らく著者がかなり影響を受けているアイルランドの妖精譚(本書でも触れられる)とも通底する。普段はファンタジーは読まないが、著者のファンタジーは気がつくとそこに自分がいる、という感じで、現実と境目が分からないうちに入り込んでいるので、いわゆる「ファンタジー」という気がせず、やはり梨木ワールド、としか言いようのない不思議な世界だ。
ちなみにウィリアム・モリス風な美しい装画は、とある植物園の植物図だそうだ。
シングルマザー物語という言葉は昨今よく耳にする
この小説も珊瑚という若い女性のシングルマザー物語という意味では
ありふれたものなのかもしれない
しかしなんと滋味あふれるものがたりなのだろう
こんなにうまく行くわけがない
出てくる人がみんなよい人ではないか
という切り捨てるような言葉も聞こえてくるような気がする
だが この現代にひっそりとこのような物語があってもよい
疲れ果て傷ついた者を 言葉でそっと抱きしめてくれるような そんな物語が
今なら、いちいちうなづけるおばあちゃんの修行。 でも実際中学生の自分だったらどうだろう?
まいの成長、とか成長過程に必要なこと、みたいなのが読み取れて、いい作品だなぁ、とおもいました。
最終的に、西の魔女の決定的なメッセージで救われちゃうけれど、、、 現実だったら、そうはいかないかも。
いろいろな意味で、若いころの自分自身、、、というか、まいと同年代の人に読んでもらいたいな。
私がこの本を読んだのは中学3年の時です。受験まっただ中に母から渡されたのがこの本でした。なにもこんな時期にこの本を渡さなくてもとおもいながら、勉強そっちのけでこの本を読んでいたのをよく覚えています。とにもかくにも私はこの本と出会ったことで、読書家の仲間入りをすることとなりました。この本との出会いがなければ私は今程本を読んでいなかったでしょうし、今こうしてレビューを書いていることもきっとなかったであろうと思います。
小説ビギナーのあなたへ送ります。
この本はとっかかりには最高です。
去年は絵本が3冊で、早くなが~い文章が読みたいと思っていたら なんだか不思議な本が出た。本の帯には「庭池電燈付二階建・汽車 駅近接・四季折々草花鳥獣河童小鬼人魚亡友等々豊富」とある。 主人公は亡き友の家の守を引き受けるのだが、いろいろ起こる話が 集まったうちのひとつがその庭の百日紅の木にほれられる話。 それを教えてもらう状況もさることながら、すんなり受け入れるのは いいのかと突っ込みを入れたくなるがそこはそれ、許してしまえる雰 囲気があるのだ。 表紙もなんとなく古い和書のようで手元においてながめたい。
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