この本の重要なポイントは次のようなことです。 1.いわゆる「発達障害」には、本来の生まれつきの(ある意味では遺伝的な)障害によるものと、「愛着障害」とも呼ぶべきものの両方が含まれる。後者は、生まれてすぐの子供と養育者との間の「動物的」とも言える親子の関係に関わる。最近の世界中での調査によると、「発達障害」と診断される子供の割合が急増しており、しかも、その急増はいわゆる文明の発達した国に主に見られる。たとえば、文明の発達していない国からアメリカに移住した人達に対してみると、移住したばかりのときには、「発達障害」の割合が低いのに、2,3年アメリカに住んでいると、その人達についても、「発達障害」の割合が高くなってしまう。つまり、文明の発達したところでは、親や養育者に何がしかの負荷がいつの間にかかぶさってしまって、本来の「動物的」親子関係が損なわれることになるのではないか。従って、最近の「発達障害」の急増の原因は、本来の遺伝的な障害の増加ではなくて、「愛着障害」の増加によると考えられる。 2.「発達障害」が「愛着障害」によるのであれば、それは子供と養育者の間の「愛着関係」の改善によって、子供の「発達障害」を根本的に改善することが可能である。しかも、仮に「発達障害」が本来の遺伝的原因である場合でさえ、「愛着関係」の改善が子供の障害を大いに改善することが知られている。 3.子供の発育の仕方は、それぞれの子供に特有のパターンがあり、それが平均的パターンからずれているからといって、「発達障害」と捉えてしまうことには問題がある。むしろ、それぞれの子供の発育の仕方を、その子供の個性と捉えて、子供の特性を活かすという考え方をすべきである。
以上のような観点から、多くの例が述べられており、生理学的な研究結果も簡単に説明されていて、とてもよい本だと思います。「おわりに」には「結局、遺伝子レベルで決定される特性も重要であるが、それだけで決まるわけではなく、幼い頃から与えられた刺激の積み重ねも、その子の発達を左右するものである。そして、中でも重要なファクターが、養育者との愛着が安定したものとして培われるかどうかなのである。こうした新たな潮流を、養育者が責められるといった否定的な意味で受け取るべきではない。むしろ、これは希望であり、閉ざされていた可能性が開かれることなのである。」と記されています。
この本に書かれていることが全面的に正しいのかどうかは判断できません。しかし、非常に重要なメッセージを与えてくれていると思います。特に、項目3に書いたような考え方は、親にも子供にも、強い自信を与えてくれると同時に、これからの心構えについての重要なメッセージにもなっています。
こういう本を読んで、泣けるとは思っていませんでした。あとがきも良かったですが、「3特別扱いと差別感」の項目が特に。私は差別とか偏見とかの言葉に敏感だと思っていましたが、ほんとに差別ってことが分かっていたかな、うわべだけだったんじゃないの?と感じ、ず〜んときました。自分の考えなんて浅はかなもんだと気づいて泣けてしまったと思います。この本にはいろいろな気づきがたくさん詰まっていました。心がゆれて、気持ちが少し変わってきて、わたしができることが見つかる。そんな本です。
「あなたのことです!!」と書かれた帯に目を引かれて手に取った。 一般に、「発達障害」は子供の症状だと理解されているようだが、 著者曰く、この障害は「むしろ大人になってから顕在化することが多い」(3ページ)らしい。
というのも、発達障害者は成績優秀者が多く、 子供のうちは「ちょっと変わったコ」で済まされてしまうからだ。 社会性が問われない期間であるが故の不幸である。
ところが、その障害は社会に出た途端、徐々に姿を現すこととなる。 「片付けられない」、「すぐキレる」、「話を聞けない」など、 こうした症状で人間関係を拗(こじ)らせてしまうのである。
しかも、発達障害者は極度に傷つき易い性質の持ち主である。 自分の殻に閉じ籠り、しまいには「うつ」になってしまうケースが多い。
私が本書に出会ったのは、就職浪人中のことで、 あまりに自分に該当する事項が多かったので、一気に読み干した。 そして、「私は発達障害者」なのだと確信し、クリニックにも通った。
しかし、それから一年以上経ってから思うに、結局の所、マトモな人っているんだろうか? 極端な話になってしまうけれど、精神的な意味での健常者なんてこの世にいないと思う。 大人も子供も、はっきり言って大差はない。 多かれ少なかれ、人間は皆、障害を抱えて生きているのである。 要は、「障害者手帳」がなければ、仕事を得られないほどの重症なのか、ということだろう。
仕事がないと、人間は困る。 家族に心配と迷惑をかけるし、自分に自信がなくなる。 負のスパイラルに陥ってしまう。
本書が実用書として有用なのは、第6章からである。 発達障害者の特徴と適切なジョブマッチング方法が書いてある。 自分にどんな仕事が向いているのか。 行動するキッカケを与えてくれるだろう。
それにしても、本書を端緒に?この手の本が書店に氾濫するようになった。 「統合失調症」とか「境界性パーソナリティ障害」とか「アスペルガー…」云々と。 全ては「自我の同一性が損なわれる精神疾患」(159ページ)という問題に帰着するような気がしてならない。 専門家でさえ、明確に区別できていないようだ。
私は素人なので何とも言えないのだけれど、 著者は「発達障害」を先天的なものとみなし、「発達アンバランス症候群」と呼ぶ。 それでは聞きたいが、脳のバランスがとれた理想的な人って、例えばどういう人なんだろうか。
本書が良書であることは間違いない。 ただし、あまり本気にし過ぎないほうがいい。 あくまで自分を戒めるためか、キャリア・ガイダンスの一助として読むべき本である。
M. フーコー編『ピエール・リヴィエール』(河出文庫)なんかを読んでみるといい。 俗に言う「狂人」が、いかに頭脳明晰かを思い知らされる。
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