■2004年7月25日に、長山靖生編『海野十三戦争小説傑作集』(中公文庫、286頁)が出た。海野が昭和12年から19年にかけて発表した戦争テーマの短編小説11編を収めている。内6編は、三一書房版『海野十三全集』未収録作品だ(「空襲下の国境線」「若き電信兵の最後」「アドバルーンの秘密」「探偵西へ飛ぶ」「撃滅」「防空都市未来記」)。長山氏の行き届いた解説が相変らず冴え渡っている。 ■中公文庫は昨(2003)年7月25日にも海野十三の『赤道南下』(314頁)と、長山氏編のアンソロジー『明治・大正・昭和 日米架空戦記集成』(海野の昭和8年発表の短編「空ゆかば」収録、292頁)を刊行している。『赤道南下』は三一書房版『全集』では抄録、「空ゆかば」は同『全集』未収録作品だった。 ■これらの背景には没後50年が経過したことによる著作権解除があるにせよ、全集を補完する作品集が今もなお刊行され続けることは、ファンや徳島県にとって本当にありがたいことだといえよう。海野十三の会理事として版元・編者等出版関係者に深く感謝したい。
繊細な心の持ち主であればこのノンフィクション小説を読み、切ない気持ちになり同情するであろう。決して残虐だけではない。
未来の戦争を予想した小説家が書き残した日本にとっての黙示録です。この人は空想科学を扱った作家であり、ある意味で日本史の預言者であったように思われます。1938年に「東京空爆」という小説を書いて木造住宅の密集した東京に空爆が行われたらどうなるかを冷静に予測していたそうです。しかし、この人が小説や新聞への投書でたびたび行った警告に耳を傾ける人は誰もいなかったと思われます。どうやら旧約聖書にあるように預言者は故郷に受け入れられないということなのでしょうか。この人が敗戦の報せを聞いた後に一家で死ぬことを考えたとか海野十三というペンネームを二度と使わなかったというのも考えさせられるお話です。この他にも原爆の出現を予想していたとか1940年の時点で既に自宅の庭に防空壕を造ろうとしていたとかいう仰天の事実が記されています。当時も今も先の見えない時代ですがこんな時だからこそ出来るだけ沢山の人に海野十三のことを知って欲しいと思います。
『火星兵団』や『海底大陸』などの作品があり、日本のSF小説の始祖として知られる著者。本書は1941年に海軍報道隊員とし巡洋艦『青葉』に乗船した記録。1942年に『赤道南下』として講談社から出たものの復刊になる。 第二次大戦中には、多くのジャーナリスト、作家、画家が戦争動員された。満州や南方に送られ、「占領地や戦場の現実」を報告させられたのである。日本の支配を喜ぶ現地人や、破竹の勢いで勝ち進む日本軍の活躍が伝えられ、戦意高揚に大いに役立ったらしい。しかし、それが現実でなかったのは言うまでもない。また、現在では戦争協力作品に対して非常に厳しい評価が与えられている。 しかしながら本書は、一般の戦争協力作品とは趣を異にする。ものすごくのんびりとした作品なのだ。軍艦での呑気な生活がだらだらと描かれる。病気持ちで、肥満していて、動きが鈍く、規律に疎いという、およそ軍隊向きとは思われない海野が、自己戯画化はしつつも見事に軍に溶け込んでいるのである。 1941年当時は日本が楽勝ムードに浸っていた時期であった。また、海野は乗艦中に実際の戦闘を経験していない。しかし、それだけでは説明の出来ない不思議なのんびり感が漂っているのである。 もちろん本書も戦争協力作品であるから、様々な欺瞞や虚構に満ちている。実際の戦争の惨状が明らかになっている現在からすれば、多くの問題点が見える。とはいえ、こうした文学に新しい光を当て、再評価していく必要を感じた。
安部公房展が目的で世田谷文学館に行ったのだが、常設展の中で海野十三が紹介されていた。 ちょっと興味を持ったので早速Amazonで検索し、入手。 作品世界は好きなのだが、他の巨匠と比べてしまうとやはりちょっと物足りなさがあるのは否めません。ポー(星5つ)、江戸川乱歩(星4つ)、海野十三(星3つ)という感じだろうか。
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