元マル暴刑事であった佐伯が暴力団が絡んでいる環境犯罪を調査し対決するシリーズ5弾。 本シリーズで毎度リアルに描かれる対決シーンを味わうことは、格闘技(空手)を修行している私にとって無上の喜び一つである。 今回も格闘技経験のある組員や喧嘩馴れしている暴力団の若頭との対決、素手で相手を殺す中国拳法の達人と死闘を繰り広げる。
本シリーズは、格闘小説といった部分だけでも読み応えのある作品であるが、本作品の称賛すべき点は、原発の闇を著者の取材で見事に暴いている部分である。 しかも、2011年3月11日に不幸にして起きた福島原発の事故を端緒とした反原発運動の盛り上がりを受けて描かれた訳ではなく、1994年の作品と知って驚きを禁じ得なかった。
原発問題は、安全上の問題だけではなく、(小さな町での)推進派と反対派の対立やグレーな利権関係の存在など、実に複雑な問題を内包しているということが、今野氏の取材で明らかになっている。かなりすごい作品だと思う。
格闘技小説は読んでいる時は、興奮するが記憶に残るような作品は少ない。 しかしながら、本作品は忘れられないものになるに違いない。 元々、今野氏の作品は好きであるが益々好きになった。 脱原発運動も続いている中、先行き本作品が大ブレイクする予感を抱かずにはいられない。
お台場近辺を管轄するベイエリア分署。 良識派だがやる時はやる頼れる係長・安積。口うるさいが几帳面な、昔ながらのタイプの刑事・村雨。 トロく見えるが抜群のツキとひらめきを持つ須田、豹のようなしなやかな身のこなしで不言実行な黒木。 村雨に弟子のごとく徹底的に教育されている桜井。そして豪快で一匹狼な速水。 個性派揃いの安積係長チームが事件解決にあたるシリーズ、最新作。今回は長編です。
今回、最大のポイントは、安積係長をやたらとライバル視する本庁所属の係長・ (年齢は安積よりも下だが同階級という設定)相楽が、人事異動のため、 安積と同じベイエリア分署の、しかも安積の隣のグループの係長に就任したことでしょうか。 とにかく、最初から最後まで、安積達に絡むこと絡むこと…まるで性質の良くない酔っ払いの方々のようです。 既刊で何度も敗北しているのに懲りない人だ…と思いますが、 実際には、どんな企業/組織にもこういうしようのないオジサマ、いますよね……。 すぐ意固地になり、上には弱く目下の者には態度が大きい。保身や出世、給料UPのことばかり考え、 視野は狭く浅はかで、人の足を引っ張ることに情熱を燃やす……。 そんな迷惑な熟年男性の典型キャラクターから、実在の人物を複数思い出したりして、 個人的には読んでいて少しストレスがたまりましたが、今回もやはり、安積達チームはやってくれます。
安積達の管轄地域にあるビッグサイトで行われる同人誌即売イベントの爆破予告がネットで発見される。 警備の強化にも関わらず、爆発が起こり、怪我人が複数出てしまう……。 安積達は、競争意識むき出しの相楽達にやりにくさを感じながらも捜査を進め、 最後には彼らが、相楽達チームに一泡吹かせる形で事件を解決します。 少し「出来すぎ」の感はありますが、彼らのチームワークと テンポの良い掛け合い、地道で堅実な捜査と無理のない結末…。 今回も期待を裏切らない面白さでした。一気読み必死です。
面白かった。
ただし、題名から受ける印象とは裏腹に、推理もの、いわゆる警察モノと思ったら大間違い。
基本的に犯罪捜査はほぼありません。犯人推理もなければ、逮捕劇もほぼなし。
だから、この「隠密捜査」という題名の印象だけで手に取ると、えらく期待とは違うものになる。
一方で、面白いんですわ。
抵抗感もありますけどね。
なにで、二言目には東大以外は人間ではない、というような発言が出るし、態度にも出るんだから。
エリート官僚であることを、遠慮会釈なく前面に出す警察官僚。
にもかかわらず、ストーリーにぐいぐい引き込まれながら、そうかぁ、こんな官僚が必要なんだってね。思うようになる。
そして、その一点の曇りもない、官僚中の官僚が、人間臭く、家族を正面から見つめることになる。
何というか、面白い。
捜査をする警官、官僚。たとえエリートだろうと、国家権力の担い手だろうと、とどのつまり一個の人間であるという、当たり前のことが実に新鮮に映る。
なかなかのストーリーテイラーが、新しい境地を開いたような気がします。
うれしいことにシリーズ物となるとのこと。次作が楽しみ楽しみ。
シリーズ2作目の本作品も前作に同様とても面白かった。
元キャリア官僚の竜崎署長(前作で息子の不祥事により所轄に左遷された)は、着任早々立て篭もり事件に巻き込まれる。
マスコミの無責任な報道が流される中、警察組織内での責任のなすりつけあいや部下との関係の悪化、加えて妻の入院が重なり、通常でも多忙な署長職(大半が印鑑の押印であるが…)がさらに多忙になる。
しかし、竜崎の持つ「原則に従って合理的に物事を解決する」信条が奏功し事件は解決に。
本書で特に感動したのは、竜崎を支える妻の存在。
転勤が多く、不規則な勤務時間、多忙な夫を支える芯の強さに感動した。
警察小説でありながら、意外な事に本書を読んで妻をはじめ自分を支えてくれる人達にも感謝の念が湧きあがってきた。
どんな人間でも周囲の支えがなければ立派な仕事ができない、という教訓を思い出させてくれた気がした。
『隠蔽捜査』のスピン・オフ短編集。長編シリーズでは竜崎伸也が主人公であるのだが、この短編集では伊丹俊太郎が主人公を務め、伊丹の視点で事件が描かれる。伊丹が主人公でありながら、竜崎の存在感が光り、クールな竜崎にも温かい一面が見え隠れするのがまた良い。ゆえに作品を読むごとに竜崎の魅力が増していくのだ。しかも、どの作品も短編にするのは勿体無いくらいの秀作であるのが凄い。
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